このシリーズはYouTubeチャンネル演劇放送局にて、俳優・演技講師の日ヶ久保香さんと一緒に作っている演技力をUPさせたい方のための無料動画講座「リアルな演技を極める20のステップ」のブログ版です。お時間のある時に是非動画版もご覧ください。
「舞台に立った瞬間、頭が真っ白になって声がうわずってしまう……」
「カメラを向けられると、急に自分の『手』をどこに置けばいいか分からなくなる……」
普段は何の意識もせずできている動作なのに、人に見られた瞬間に緊張していつも通りにできなくなってしまう。俳優や声優、あるいはオーディションや面接に挑む多くの人を悩ませるこの現象。
その正体こそが、リアルな演技の最大の敵、「自意識(人に見られているという意識)」なんです。
『リアルな演技を極める20のステップ』第2回となる今回は、本当の自分を出せるようになる「自意識の捨て方」を解説します。
1. 脳内の「監視員」を黙らせる方法
前回、リアルな演技には「心が動いて、身体が真実に反応すること」が欠かせないと学びました。それを真っ向から邪魔するのが、「上手く見せたい」「変に思われたくない」というあなたの中にある心、自意識です。
実は演技が上手いプロの役者でも、あなたと同じように、人前で「恥をかきたくない」という恐怖心を持っています。
しかし、演技が上手いプロは、自然と湧いてきてしまうその心、「自意識」を「そらす方法」を訓練で身につけているのです。
意識のベクトルを「内」から「外」へ
なぜ自意識があると演技が嘘くさくなるのでしょうか?それは、あなたの中に「自分をジャッジする監視員」が現れるからです。
演技の最中に「今のセリフ、変じゃなかったかな?」「今の表情、かっこよく映ってる?」と自分を観察し始めたら、意識のベクトルが完全に「内向き(自分自身)」になっています。
これを、私たちが普段生活しているときと同じように、意識を「外向き(相手、周囲のモノ、目的)」に変えてあげる必要があります。
「上手くやろう」とするのをやめて、「目の前のことに必死になる」。これこそが、自意識を消す一番の早道です。
2. 自意識を消して、目の前のことに集中するための3つの実践エクササイズ
自意識は「なくそう」とすればするほど、余計に膨らんでしまいます。それなら、自分以外のことに集中して、脳を忙しくさせ、自意識が座る席をなくしてしまえばいいのです。
エクササイズ①:観察と描写(Observation & Description)
意識を強制的に「外の情報処理」に向けるトレーニングです。
【やり方】
目の前にあるモノ(ペンやコップ、自分の手など)を一つ選び、その細部を2分間、徹底的に言語化して実況し続けます。
(例)「ペンのキャップの右側に、1ミリくらいの小さな白い擦り傷があります」「光が反射して、ここだけ少し白っぽく光っています」など、抽象的な言葉を使わずに細かく描写します。
動画で自分の姿を撮影してみてください。最初は緊張していても、1分を過ぎたあたりから、脳がフル回転して表情から余計な自意識が消えていくのがわかるはずです。
エクササイズ②:5-4-3-2-1 グラウンディング
本番前、緊張で「頭」の中に逃げ込んでしまった意識を、五感を使って「身体」へと引き戻す、心のリセット法です。周りにあるものを五感で探して、心の中で言葉にしていきます。
- 5つの目に見えるもの(照明の影、床の木目など)
- 4つの肌で感じるもの(服が皮膚に触れる感覚、椅子の硬さなど)
- 3つの耳に聞こえるもの(エアコンの稼働音、遠くの足音など)
- 2つの鼻で感じる匂い(スタジオの匂い、洗剤の香りなど)
- 1つの今感じている身体の感覚(足の裏にかかっている重心など)
これを本番直前にやるだけで、頭の雑音が消え、嘘のないクリーンな存在感を取り戻せます。
エクササイズ③:ストップ・ウォッチ・カウント
短時間で一気に集中する、スピード感のあるワークです。
【やり方】
10秒ごとに「赤いもの」「丸いもの」「ザラザラしたもの」とお題を変え、部屋の中から該当するものを指差しながら「カバン!」「帽子!」と全力で名前を叫びます。
必死になって探しているとき、人は「自分をどう演出しようか」なんて考えられません。この「必死に何かをしている状態(Doing)」こそが、観客が目を離せなくなるリアルな状態なのです。
オーディションで使える「緊張緩和の裏技」
面接官を前にして緊張がピークに達したら、相手の顔を見るのではなく、「相手の瞬き(まばたき)の回数を数えること」に10秒間だけ集中してみてください。意識が強制的に外を向くため、一瞬で緊張が和らぎます。
3. 今週の宿題:必死に探しものをする
今回のホームワークは、自意識を消す感覚を掴むための実践です。
【お題】
カバンの中を探りながら、「ない。ない、ない、ない! ……ダメだ。終わった……」というセリフを言う(カバンを探す時間は30秒)。
- シチュエーション1: 空のカバンを使って演じる。
- シチュエーション2: カバンの中に色々な小物をぐちゃぐちゃに入れ、その中から「一番小さなクリップ」を本当に探しながら演じる。
【応用編】
シチュエーション2の状態で、手に触れたものの手触りを「布が邪魔だ、あ、これはペンだ、違う……」とブツブツ実況しながら探す。
スマートで格好いい動きをしようとしないでください。髪がボサボサになっても、必死な顔になっても、実際に探しものをしている応用編の方が、圧倒的にリアルで魅力的な演技になっているはずです。
まとめ
第二回のポイントのおさらいです。
自意識を捨てる=「自分に向いている意識の矢印を、外に向ける」
「あ、今緊張して自分に意識が向いてるな」と気づけたら、それだけで一歩前進。すかさず目の前のモノを観察したり、グラウンディングをして意識を外に引っ張り出しましょう。
最後に、こうしたトレーニングは「気合」ではなく「習慣」です。朝起きたとき、あるいは寝る前の5分、自分の生活リズムに合わせてエクササイズを習慣化してみてください。まずは1ヶ月、一緒に続けていきましょう。
次回、第3回は、外の世界と繋がるための最重要スキル「良い聞き手になる〜反応の重要性〜」をお届けします。セリフを喋っていないときのあなたの演技が、実は評価を決めます。
それでは、また次回のレッスンでお会いしましょう!
