このシリーズはYouTubeチャンネル演劇放送局にて、俳優・演技講師の日ヶ久保香さんと一緒に作っている演技力をUPさせたい方のための無料動画講座「リアルな演技を極める20のステップ」のブログ版です。お時間のある時に是非動画版もご覧ください。
あなたは、自分が演技をしている動画を見た時に、『なんだか嘘くさいな』とか『わざとらしいな』と落ち込んだことはありませんか?
演技が上手くならないと悩んでいる多くの人が、セリフを上手に言おうとしたり、感情を作ってセリフに込めようとしています。
実はそれが『リアルな演技』から遠ざかる原因なんです。
今回から始まる新シリーズ『リアルな演技を極める20のステップ』では、マイズナー・テクニックをベースに、俳優や声優が「嘘をつかない表現力」を手に入れるための知識と練習方法を全20回でじっくりお伝えしていきます。
第1回のテーマは、「リアルな演技」とは何か? 〜演技と嘘の境界線〜 です。
1. 演技は「嘘」か「真実」か
「演技とは嘘をつくことだ」と言う人がいます。確かに、架空のキャラクターとして、実際には起きていない出来事を演じるわけですから、一見すると嘘のように思えますよね。
しかし、アメリカの有名な演技指導者サンフォード・マイズナーはこう言いました。
「演技とは、想像上の状況下で、真実に生きることだ」
マイズナーのことや、この言葉をしらなくても、演技をつきつめると、必ず、ここに行き着くと私は思います。
では『演技とは、想像上の状況下で、真実に生きることだ』この言葉の中の「真実に生きる」とはどういうことでしょうか?
それは、あなたの身体が、その瞬間に本当に心に反応して動いているかということです。
そして、これが「リアルな演技」の核心です。
もう少し詳しく説明します。「嘘の演技」は分かりやすく言い換えると「フリをする演技」です。
例えば、悲しい場面だから『悲しいフリ』をして泣く。怒る場面だから『怒っているフリ』をして
声を荒げる。といった演技のことです。
こうした演技を見ると、観客は『あ、この人演技してるな』と冷めてしまいます。あるいは、頭で「演技しているな」とは思わなくても、観客が演技に引き込まれて共感して心が動く、ということはないでしょう。
一方、「リアルな演技」、「役者の身体が、その瞬間に本当に心に反応して動いている演技」では、
・役者自身が悲しいから、結果として涙が出る
・相手にイラッとするから、思わず声が大きくなったりする。
つまり『感情を見せる』のではなく、心が動いた結果、何かが起きてしまう、これこそがリアルな演技です。
俳優の仕事は、嘘をつくことではありません。台本という「架空の世界」の中に、自分自身の「本物の感情や反応」を持ち込むことなのです。
それでは、どうやって、台本という『架空の世界』の中に、自分自身の『本物の感情や反応』を持ち込むのか。
理屈はわかっても、いざ演じようとすると難しいですよね。
実際に演じるのは身体や、身体から出る声です。
身体や声を思い通りに操るには稽古が必要です。
一緒に稽古して身につけましょう。
「嘘の演技」と「リアルな演技」の違い
・嘘の演技(Doing as if): 「悲しい場面だから悲しいフリをする」「怒る場面だから声を荒げる」といった、外側(見た目)だけを整える作業です。これでは観客は冷めてしまいます。別名「フリをする演技」
・リアルな演技(Living truthfully): 「本当に心が動いた結果、涙が出てしまう」「相手にイラッとしたから、思わず声が大きくなる」という状態です。
2. 【実践】リアルを身体で覚えるエクササイズ
理屈がわかっても、いざカメラの前に立つと難しいもの。まずは、自分を「嘘をつかない状態」に持っていく練習から始めましょう。
エクササイズ①:1分間の実況中継
「演じよう」とする自意識を切り離し、「今、ここ」に集中する感覚を養います。
【やり方】 1分間、「今、自分が感じていること」「目に見えていること」「聞こえていること」を、ひたすら声に出し続けます。
【3つのルール】
- 「……と思っている」と現在進行形で実況する。
- 綺麗にまとめたり、物語を作ったりしない。
- 沈黙しそうになったら、その「焦り」をそのまま口に出す。
チェックポイント:
- 必要以上のことをしていないか?(カメラを意識してポーズを作っていないか)
- 途切れずに喋れているか?(五感センサーが働いているか)
- 自分の心の状況を隠さずに話せているか?(「緊張している」と素直に言えているか)
エクササイズ②:真実と嘘のスイッチ
「自然に話す状態」と「演技をしている状態」の差を、自分の身体の感覚で理解します。
【やり方】
- 自分の話をする: 実際にあった出来事や自分の気持ちを、友達に話すように1分間話して録画する。
- 他人の話をする: 誰かから聞いた話を、あたかも「自分の体験」であるかのように話して録画する。
録画を見比べてみてください。他人の話(嘘の話)をしているとき、声が上ずったり、視線が泳いだり、体に余計な力が入りませんでしたか?その違和感こそが「嘘」のサインです。
エクササイズ③:見えない相手への言葉
次は、少し「実際の演技に近い」ことをやってみましょう。
【やり方】お題を出しますのでお題に沿った形でセリフを言ってみてください。お題は、状況と言葉です。その状況に合わせて、指定の言葉を言ってください。
【お題】
- 抽選で見事当選したプラチナチケット!片思いの異性をプラチナチケットでデートに誘うことに成功!しかし、チケットをなくさないように挟んだ本を、ウッカリ捨ててしまったことに気がついた時の「マジか!?」
- チケットを挟んだ本をウッカリ捨ててしまい、チケットがあると言って誘った相手に「楽しみにしてる」と言われてチケットを無くしたことを伝えられず、絶望しながら当日の朝を迎えたが、捨てたと思った本が、枕のしたから出て来て、チケットもちゃんと挟まっていた!時の「マジか?」
- 友達がサプライズで誕生日を祝ってくれた。純粋に嬉しい時の「まじかw」
- 5年付き合った恋人に「本当は最初から好きじゃなかったから別れてくれ」と言われた「え?なにそれ?」
- 家に帰ったら自分の荷物が全て廊下に出されていた。家族に聞いたら「昨日家族会議で決まった」と言われた「え?なにそれ?」
3. 宿題:喉の渇きを感じる
今回のホームワークは、非常にシンプルですが奥が深いです。
【お題】 コップの水を飲み、「あ、おいしい」というセリフを言う。これを2つの状況で自分で演じて、動画で撮影してください。
- シチュエーション1: 水を飲んだ直後、全く喉が渇いていない状態で演じる。
- シチュエーション2: 運動後など、本当に喉が渇いている状態で水を飲んで言う。
見比べれば一目瞭然なはずです。実際に喉が渇いているときのリアリティは、テクニックで作ったものとは重みが違います。演技は作るものではなく、状況によって「引き出されるもの」なのです。
まとめ:上手に演じようとするのをやめる
今日のポイントはたったひとつ。 「演技はフリをすることではなく、その場で本当に心を動かすこと」です。
視聴者は、あなたの「説明的な動き」が見たいのではありません。あなたの身に起きている「真実」が見たいのです。
次回、第2回はリアリティを邪魔する最大の壁、「自意識を捨てる方法」を練習します。自分がどう見られているか気になってしまう……という方は必見です!
それでは、また次回のレッスンでお会いしましょう。